オスプレイ、高い安全性

オスプレイ、高い安全性

静岡県立大学
特任教授
小川 和久 氏


聞き手 編集局長 島田一

――オスプレイは危険なのか…。


小川 オスプレイを危険というならば、同機よりも事故率が高い中華航空やフィリピン航空といった民間航空の日本への飛来を禁止するべきだろう。先日の沖縄での不時着事故をカウントしても、オスプレイは軍用機の中で事故が少ない部類だ。沖縄での事故が最も深刻なケースである「クラスA」に分類されたことを取り上げて、オスプレイの危険性を訴える主張もみられるが、「クラスA」の定義は死傷者が出たケース以外に損害額が200万ドル以上のものを含んでいる。地上で整備員が牽引中にぶつけて機体を破損しても、「クラスA」の事故になることもあり、クラス分け自体に意味はない。2006年の実戦配備後、オスプレイの死亡事故が少ないのは、はっきりとデータで確認できる。

――沖縄の事故をどうみるべきか…。


小川 日本政府もきちんと理解していないようだが、あれは「ハードランディング」と呼ばれる状態で、分かりやすく言えば不時着だ。より専門的な表現では「クラッシュランディング」となるが、操縦士が自分の意志で着水したことに変わりはない。意志に反して落下する「墜落」とはまるで違う。5人の搭乗者のうち負傷者が2人、3人は無傷というのがその証拠で、もし本当に墜落なら、全員が死亡していたはずだ。2015年5月にオスプレイがハワイで着陸に失敗したケースでは2人が死亡したが、あれも墜落ではないからこそ、他の搭乗者20人は無事だった。オスプレイはヘリコプターと同様にオートローテーション(自由回転飛行)が可能であることから、着地(水)の時にハードランディングによって機体が大破することはあっても死亡事故にはつながりにくく、一般的な固定翼機と比べて安全性が高いという特徴がある。米国を庇うつもりはないが、データからみて、オスプレイが他機種と比べて安全なのは歴然とした事実だ。

――常に危険と報道しているマスコミは勉強不足というわけだ…。


小川 それもあるし、危険と報じた方が読者に読まれると思っている節もある。しかし、少し考えればわかることだが、オスプレイはすでに実戦配備が始まってから10年以上も経過しており、もし本当に欠陥機であれば、とっくに米議会が調達を中止させているだろう。2008年7月には、すでに大統領選勝利が有力視されていたオバマ前大統領もオスプレイに乗ってイラクを視察している。大統領専用ヘリにオスプレイが現時点で採用されていないのは事実だが、これは単に大統領専用ヘリ用の特別な装備をもつ現在の機体が更新時期を迎えていないためで、大統領スタッフは既にオスプレイで移動している。オバマ氏が去年5月に広島を訪問した際にも、スタッフはオスプレイを利用していた。現在イタリアのメーカーが、民間用にオスプレイを小型化したタイプのティルトローター機を開発しているが、報道機関もいずれそうした機体を利用することになるだろう。

――トランプ政権下で、日本は自主防衛が必要になるのか…。


小川 トランプ氏の意向とは関係なしに日本が取り組むべき課題だ。日本の安全保障の選択肢は武装中立(自主防衛)と同盟関係の活用の二つしかないが、リアリズムから考えれば日米同盟をとことん使うことだ。それが「自分の国は自分で守る」ということだが、日本国民の理解は乏しい。武装中立(自主防衛)については、防衛大学校の教授らの試算によれば、現状と同程度の安全を日本が単独で実現するには、年間23?25兆円もの予算が必要だ。現在の防衛予算5兆円の5倍もの金額であり、現実的とはいえないだろう。また、日米同盟を失えば、日本は核抑止力を失ってしまう。自前の核開発には日本の技術力で10年は必要だが、その空白期間に日本は他国の脅威に裸同然で向き合うことになる。日本が核開発に取り組めば、他国の妨害工作も想定され、実現のためのハードルは高いと思わなければならない。

――トランプ氏は日本の核保有容認発言をしていたが…。


小川 選挙中の発言は、「日本は安保ただ乗り」とする米国の一般市民の感覚をトランプ氏も持っていたということだ。だから「核兵器でも持たせて役割を果たさせろ」ということになる。今は日米同盟の実態を理解しており、今後、発言を繰り返すことはないはずだ。国力の小さな北朝鮮と違って、日本が核を保有する意味合いは非常に重い。核開発の姿勢をみせようものなら、口実を見つけて開発終了前に軍事攻撃を受けるおそれすらある。日本が核保有を世界から承認されることは、現状ではどのような形であっても考えにくい。元航空幕僚長の田母神氏が主張しているような、NATO(北大西洋条約機構)に倣った核兵器シェアリングも現実的とはいえない。そもそもNATOの5カ国でシェアしている米国の核兵器は戦術核兵器と呼ばれる小型の核爆弾などで、旧ソ連軍の戦車や航空機を吹き飛ばすことを目的としたものだ。しかし、日本にとって必要なのは、日本が核攻撃された際に報復するために必要な戦略的な性格を持つ核兵器だ。それがないと抑止効果は生まれてこない。米国が廃棄した核弾頭型のトマホーク巡航ミサイルなみに、少なくとも射程2500キロメートル以上の準戦略核兵器が必須だが、世界的な核戦争の引き金になりかねないこのような兵器を、米国が同盟国とはいえ他国に譲り渡すはずがない。

――敵基地攻撃能力は必要か…。


小川 こちらも米国が持たせてくれないだろう。同盟国の日本が暴走し、先制攻撃をしかけるようなことがあれば、米国は望まない戦争に巻き込まれかねないからだ。ただ、米国は日本の敵基地攻撃能力に代わる戦力を常時展開しており、横須賀を母港とする12隻のイージス艦と日本周辺を遊弋している巡航ミサイル原潜の搭載するトマホーク巡航ミサイルは平均して500発。これが常に北朝鮮全域を狙っている。北朝鮮側もそのことをよく理解している。中国に対しても同様の攻撃態勢が整っているのだが、日本人だけがそうした状況を理解していない。

――米国は日本の負担増を求めるのか…。


小川 駐留経費の負担増は求めないとみている。すでに現状で日本は金額、負担割合ともドイツやイギリス、韓国といった米同盟国を大きく上回っているからだ。米国防総省の資料(2004年版)によれば、日本44億1134万ドル(5382億円)負担率74.5%、ドイツ15億6392万ドル(1908億円)同32.6%、韓国8億4311万ドル(1029億円)同40.0%、イタリア3億6655万ドル(447億円)同41.0%、イギリス2億3846万ドル(291億円)同27.1%となっている。これ以上負担を増やすと、駐留経費の全額を日本が負担することになるが、それでは米軍が日本の傭兵か何かのようになってしまう。それは米国のプライドが許さないだろう。それよりももっとありそうなのは、PKOへのより積極的な参加や、中国へ圧力を加えるための南シナ海での共同行動への参加への要請だろう。また、防衛費の増加を提案される可能性もある。

――提案を呑んで防衛費を増やすべきなのか…。


小川 その場合、目安となるのはNATO加盟国の防衛費の目標であるGDP比2%程度だ。おおよそGDPが500兆円の日本の場合、2%では約10兆円程度となるが、この程度は適切な防衛力整備のために必要だ。発想を転換して、米国の要求に屈するのではなく、要求をテコにして、必要な防衛力を整備していく考えが必要だ。そもそも、これまでの防衛予算は、自衛隊のあるべき適正規模を実現するために算定されていたわけではなく、根拠のない金額だった。どの程度が適正規模であるかは議論の余地があるが、たとえば陸上自衛隊は、世界で6番目という長大な日本列島の海岸線を踏まえた上で、災害派遣に十分な人員を確保するには25万人が必要と算出している。現在は実員が13万名程度であるため、ほとんど倍増する必要があるわけだ。私としては、陸海空の合計で40万人程度を目標とするべきだと考えている。

――情報機関も必要だ…。


小川 必要なのは確かだが、現在の日本にはそもそも情報機関がどうあるべきかといった思想すらないのが現実だ。必要と主張する論者に聞いてみても、多くがジェームズ・ボンドか、イスラエルのモサドを夢想しており、幼稚と言わざるをえない。そもそも、情報機関の中核は高度なシンクタンク機能なのだが、そのことがまるで理解されていない。例えば米国のCIAは4本柱で構成されているが、いわゆるスパイ活動を担当する工作部門、組織を支える総務・人事など行政部門、必要な国や地域を研究する地域研究部門、そして最新技術を研究するテクノロジー部門だ。確かにモサドは後者二つのシンクタンク機能がないが、これは単に他の政府機関にアウトソーシングしているだけだ。このシンクタンク機能をどのようにして整えるかを考えない限り、情報機関の設置は机上の空論だ。

――昔から日本は諜報活動が苦手だ…。


小川 実際、第二次世界大戦の際も、日本軍の情報組織はお粗末なものだった。これは、帝国陸海軍が、いわゆる日本型の秀才しか存在しない組織になり、日本でしか通用しない価値観で国家の戦略を考えるようになってしまったためだ。この点、日露戦争当時の日本の指導部は大きく違っていた。これは、明治維新の指導者たちが、日本に西欧列強の植民地支配の魔の手を押し戻す力がないことを自覚したうえで、大量の外国人専門家を雇用することで世界最先端の知識と国家経営のノウハウを取り入れたからだ。私はこれを国家的頭脳移植と呼んでいるが、いわゆるお雇い外国人が日本の発展に果たした役割は非常に大きい。最も給与が高い外国人は、当時の日本政府のトップである太政大臣よりも賃金が高く、当時の月給で600円~800円、現在に換算すると月給1億円を超えるような給料が支払われていた。莫大な金額ではあるが、費用対効果は非常に優れていたと評価できる。

――その成果は日露戦争でも発揮された…。


小川 その通りで、外国人たちに支払われた給与総額の数倍の資金を軍事力の整備に投入していたとしても、列強に追いつくことはおろか、ロシアと互角に戦うことはできなかっただろう。当時の日本のリーダーには素晴らしい人材が揃っており、特に児玉源太郎と明石元二郎の連係プレーなど象徴的だ。児玉は当時内務大臣を務めていたにも関わらず、みずから降格人事を行って参謀本部次長に就任し、現場の指揮を執った。児玉は、当時の国家歳入が2億5000万円ほどだった時代に、100万円もの工作費を一介の陸軍大佐に過ぎない明石に託し、対ロシア諜報活動に専念させた。現在の政府税収を50兆円とすると、2000億円にも相当する金額だ。ロシアの首都サンクトペテルブルクの日本公使館で駐在武官をしていた明石は、この資金を使ってスウェーデンンのストックホルムに拠点を置いてスパイ組織を作り出し、ロシア革命に火をつけ、ロシアとの戦争を引き分けに持ち込むことに貢献した。海外では、明石の活躍について、「東郷平八郎や大山巌はロシア帝国の陸海軍を倒したが、明石はロシア帝国の心臓を一突きした」との評価がされている。

――日本人も諜報活動ができないわけではない…。


小川 児玉と明石のケースは、日本人にも世界の水準を超えた活動が可能だということを証明している。現在の日本政府にもこうした歴史の教訓を生かして安全保障戦略を練り上げて欲しい。特に財務省には、予算編成だけではなく、安全保障のあるべき姿を描く役割を担うことを期待したい。財務省が率先すれば政府全体が動きやすいし、財務省の人材は優秀で、使命感が強い人も多いからだ。米国でも、タバコや麻薬の取り締まりは財務省の管轄だし、国土安全保障省の組織になるまでは大統領の警護を行うシークレットサービスも財務省傘下だった。それだけ本来の財務省の役割は大きいことを意識し、戦略的な視点で日本の未来を考えて欲しい。