TOPインタビュー・ハイライト

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17年上期


聞き手 編集局長 島田一

1/10掲載 環境事務次官 小林 正明 氏
――現在の環境行政のテーマは…。


小林 環境行政においては従来、公害や自然破壊への対応が中心であったが、最近は循環型社会の実現に向けた取り組みを進めている。公害問題については、河川などフローの部分については汚染対策がほぼ終了している。ただ、湖や港湾に溜まった汚染土壌や地下水汚染といったストックの部分はやっかいで、完全に解決するまでにはなお時間を要する。このほか、アスベストやポリ塩化ビフェニル(PCB)など、人体への悪影響を把握しないまま大量に使用された物質の始末には苦労している。PCBはカネミ油症事件で健康被害が確認されて以降、使用は中止されているが、世の中にはPCBを使った製品がなお出回っており、一生懸命探し出して処理をしている状況だ。アスベストも建材として一時期非常に重宝され、アスベストが使われている古い建造物も残っている。こうした事例を踏まえると、やはり多少の手間や費用がかかろうとも、最初から環境という要素を組み込んでおいた方が結果的にはローコストだということになる。環境への配慮が重要であるとの認識は社会的に共有されてきているのではないか。

――日本が循環型社会を目指していくメリットは…。


小林 いかに安く捨てるかを問題としていたゴミを資源と捉え直していけば、資源の無い国と言われている日本が資源国になる可能性は十分ある。日本では江戸時代から循環型社会という思想はあったものの、昭和の高度経済成長期に環境から成長に一気に舵を切り過ぎたと言えよう。ただ、環境問題が起こってから対策を打つよりも、やはり最初から環境と経済成長を両立する道を選んだ方が社会として合理的であろう。それがまさに循環型社会であり、現在はまさに新しい循環を作ろうとしているところだ。また、脱炭素社会の実現や生態系の保護も大きなテーマであるが、これらを全て叶えた時に社会として一番良い答えが出ると考えている。加えて、循環型社会の実現を目指していくことで、各地域が抱える様々な課題にもしっかり応えることができると実感している。


1/23掲載 医療ガバナンス研究所 理事長 医師 上 昌広 氏
――製薬業界の現状は…。


上 今の製薬業界は、護送船団方式やMOF担(大手金融機関の対大蔵省折衝担当者)を使っていた昔の銀行と同じだ。価格やサービスを統制した結果すべての金融機関が同時に危なくなったように、今の医療行政は医療の本体である医者から患者へのサービスを怠って、国が統制ばかり握っている。まさにバブルまでの日本の銀行行政に瓜二つだ。日本の薬価が高いのは厚生労働省が決めているからで、薬というのは本来、グローバルなものであり、内国資本や外国資本という枠組みに囚われず価格が市場で自由に決まることで発展していくものだ。

――製薬会社の現状は…。


上 また、新薬開発における基礎研究というものは何が成功するかまったくわかっていない。これまで製薬企業は膨大な研究費を投じ、なかにはノーベル賞を受賞したものもある。ところが、実際の薬になったのは、ジェームス・ブラックによる制酸剤など、ごくわずかだ。新薬開発とは、例えばフェイスブックやアップルと同じように巨額の費用を投じてヒット商品を生み出すわけはなく、確率として偶然発生するレベルに過ぎない。1980年に米国でバイドール法が制定されて政府資金で研究開発された新薬であっても大学が特許権を取得することが認められ、その頃から製薬会社の業態変化が始まった。製薬会社は確率が低く巨額を投じる研究開発から撤退し、大学の研究開発機関を利用するようになった。そのために製薬会社はファンド化していくが、確率が低い事業であることから言い換えればこれほど投機的なビジネスはない。一方、創立して日が浅いボストンの製薬会社アレクシオンファーマは、日本でも数百人程度の患者しかいない血液難病の薬を作っただけで時価総額3兆円を超えた。一つヒットすればビッグビジネスとなる。80年代にファンド化していった製薬会社は、90年代に入って資金調達コストを下げるために合併していくようになる。一方、日本の製薬会社は80年代までグローバル競争力では優れた企業だった。しかし、ファンド化の波に乗り遅れて以降、臨床研究開発や市販後調査で海外企業の後塵を拝するようになった。足元では武田薬品が湘南の研究所を閉鎖し、米国に移転したのもその流れの一環だ。こういったグローバルな変化に乗り遅れた日本国内製薬業界は、巨額な財政支出を背景に国内で完結して利ザヤ、利権を得られる体制にしてしまった。ドラッグ・ラグ(海外で使われている薬が日本で承認されて使えるようになるまで時間がかかること)を非関税障壁として利用し、薬の値段は厚生労働省の中医協が決め、世界の市場価格とかい離してしまっている。


3/13掲載 アジア開発銀行 総裁 中尾 武彦 氏
――目覚ましくアジア経済が成長した要因をどうみるか…。


中尾 1960年代のアジアはガバナンスもなければ技術革新もなく、日本という例外を除けば成長は見込めないという見方が欧米では強かった。しかし、その後は「Four Tigers」と呼ばれた香港、シンガポール、台湾、韓国に始まり、マレーシアやタイ、インドネシア、そして中国やインドなど多くの国が著しい成長を遂げた。それは、これらの国々が市場経済に基づく成長政策をとってきたこと、あるいは途中から国家主導の計画経済や輸入代替などの政策をやめて開放的な政策に転換したことが大きな要因だ。私は、途上国経済が発展するためには8つの条件、即ち①インフラへの投資、②人的資本への投資、③マクロ経済の安定、④開放的な貿易・投資体制あるいは規制緩和と民間セクターの促進、⑤政府のガバナンス、⑥一定以上の社会の平等性、⑦将来へのビジョン・戦略、⑧政治的安定・周辺国との良好な関係が必要と考えている。アジア各国がこれらの条件を満たしてきたことが成長要因だと評価している。

――アジアは今後も成長を続けられるのか…。


中尾 確かに既に大幅な成長を遂げてきたが、まだまだ成長できる。例えばフィリピンやベトナムは、1億人前後の人口を持つが、一人当たりGDPはまだ3000ドルに満たず、今後の発展余地は大きい。天然ガスなど豊富な資源から恩恵を受けているインドネシアも、一人当たりGDPは依然3000ドル台だ。3万ドルを超える先進国へのキャッチアップ余地は大きい。東南アジア以外では、南アジアは約14億人の人口を超えるインド、1億9000万人のパキスタン、1億6000万人のバングラデシュがあり、いろいろ難しい問題はあるものの最近は成長が強まっている。そのほか、中央アジアはいかに資源に依存しない経済構造を実現するかが重要で、例えばウズベキスタンなどは近代的な農業ビジネスもチャンスがある。いずれにせよ、世界の人口の半分強を占めるアジアは、今後も適切な政策を維持していくかぎりにおいて成長を続け、2050年には世界のGDPに占める比率も現在の3分の1から半分を超えるようになっていくだろう。


4/17掲載 上智大学 法科大学院 教授 楠 茂樹 氏
――東京五輪の会場建設費など、公共工事のコストの高さが問題となってきている…。


 私は東京都の入札監視委員会の委員を務めており、東京都による入札制度改革案の取りまとめ作業でもヒアリングを受けた。都が3月末に公表した改革方針では、1者入札の場合は入札を中止するなどとしているが、これは現場からすると無理筋な話だ。確かに、2者以上が入札に参加した場合、1者に比べて落札価格は何%か低くなるというデータは存在する。改革案では1者入札を無くすことで公共工事のコストを抑制できると主張しているが、これにより生じる弊害は無視しており、ヒアリングの席でも問題があると申し上げた。都が行っている公共工事では全体のうち約1~2割が1者入札となっている。仮に年間で5000件の公共工事があるとして、今回の改革案が実施されれば少なくとも500件程度が中止となる公算だ。再び入札を実施するためにはさらに2?3カ月ほどの期間をかけて再公告・再入札を行う必要があり、実務が滞ってしまう恐れがある。さらに、再入札でも応札が全く無かった場合はどうするのかといった議論は今回ほとんどされていない。大型案件に限定するとの話もあるが、弊害の影響もその分大きいということに留意すべきである。

――公共入札で1者応札が無くならない背景は…。


 過去の民主党政権時代には公共工事を減らしており、業者数に対して公共工事が少ないため、ダンピングによる受注競争が激化した。これにより業者の数が減少していたところ、東日本大震災からの復興や東京五輪の招致決定を受けて急激に公共工事の需要が増加し、需給バランスが受注者優位に大きく変化してしまった。需給バランスで受注側が優位な時に工事価格が上がるということは、ある意味自然の成り行きとも言える。予定価格が合わなければ業者は参入してこない。1者も応札しない不調のケースが多いということは、そう言った状況をよく説明している。確かに、発注機関が入札参加資格を無駄に限定していることが原因である場合もあるかもしれない。しかし需給バランスの結果として1者応札が多発しているのであれば、これを中止するのはナンセンスな話である。まずは原因分析をきちんとすることが先決だ。仮に1者応札を禁止するとしても、弊害をもたらさないよう慎重な取り組みが求められる。


5/29掲載 外交戦略研究家 初代パラオ大使 貞岡 義幸 氏
――現在の外務省の問題点は…。


貞岡 各国の外務省と比べて気になるのは、国際法をあまりにも重視しすぎているのではないかという点だ。国内法であれば政府が強制力を行使できるが、国際法はいわば紳士同士の約束のようなもので、誰にも強制力がない。それにも関わらず、外務省は国際法で世界の問題が解決できるような勘違いをしている。なぜそうなったかというと、戦後日本の国会では日米安保条約を巡り審議がたびたび紛糾したため、これを担当する外務省の条約局長には代々優秀な人物が就き、その後外務事務次官まで務めることが多かったことと関係しているのではないか。外務省内で条約関連の仕事に長年携わっていると、外交では国際法が最も重要だと認識に立ってしまう。国際法を重視しすぎた結果として、竹島や尖閣諸島については「国際法に照らし、我が国固有の領土である」との認識を示し、韓国や中国の行為については「断固抗議する」と表明するのみにとどまってしまう。現状は韓国が竹島を不法占拠しており、中国も尖閣諸島を虎視眈々と狙っているにも関わらず、「国際法上は日本に正当性がある」と自分自身を納得させてしまっている。国際法違反でも他国に軍事力によって自国の領土に居座られたら実質的にはその国のものとなってしまうわけで、国際法を重視する外務省は国際社会の現実を見ていない。同様の問題は慰安婦に関する日韓合意でも顕在化している。外務省は日韓両国で国際的に合意したものだから内容は有効だと主張しているが、国際法違反だといって韓国を裁く主体は存在しない。日本がいくら「国際合意に違反している」と主張しても、全く問題の解決にはならない。

――外交や防衛を含めてしっかり対応しなければ、日本の権利が損なわれてしまう…。


貞岡 外務省を巡る2つ目の問題は、国連への依存度が高い点だ。第二次世界大戦で敗戦した日本は国連にとっては敵国であり、国連憲章の敵国条項には依然として日本が入っている。日本は国連にこれまで多額の資金を拠出しているにも関わらず、逆に日本を敵国とする国連からは人権や慰安婦について注文を付けられている。確かに、日本が国連に加盟した半世紀以上前の時代であれば、国連は世界平和を達成するために必要な機関として世界中から尊敬を集めており、日本も国連中心の外交でよかった。ただ、今や世界各国にとって国連は力のない賞味期限を過ぎた機関として見られている。例えば、北朝鮮はこれまで何度も国連決議違反を繰り返しているにも関わらず、誰も北朝鮮のミサイル開発を止めることはできない。こうした現実を直視せず、なお国連中心の外交を進めることは間違っている。


6/19掲載 早稲田大学 教授 深川 由起子 氏
――日韓関係は微妙な状態が続いている…。


深川 日本では「嫌韓」が一大ジャンルに拡大した一方で、韓国は元々「反日」ナショナリズムがあり、売り言葉に買い言葉で互いに感情的になっている印象だ。旧い世代には戦前の半島蔑視観があったが、最近の「嫌韓」はそれとはルーツが異なり、韓国が日本に追いつき、追い越そうとしていることでプライドが傷ついていることが悪感情の一因になっているように思われる。「嫌韓」には、韓国の発展は全て日本の技術を盗用したことによるものといったような荒唐無稽な主張が多いが、不幸なことにいわゆる大手メディアも次第に「嫌韓」を「忖度」し、バイアスがかかった報道を行うことが増えた。

――韓国は何故成長できたのか…。


深川 通貨危機以降のここ20年についていえば、徹底して成果主義、短期収益主義を追及したことが大きい。グローバル化が新興市場で拡大する時代にはスピード経営が重要で、その波に韓国は乗ることに成功した。労働者の意識も異なり、韓国では、ある程度待遇がいい大企業で働くためには、常に実績を示し続けることが要求される。例えば日本の場合、海外出張の報告書は帰国してから作成することが珍しくないだろうが、韓国では飛行機の中で作成したうえで、飛行場に到着したのと同時にメールで提出し、会議で経営判断ができるのが常識だ。こうしたスピード感の違いがあるため、日本企業は韓国企業との競争で敗退することが増えた。ただ、この勤勉さは、そうでなければ生きていけないことが背景にある。例えば韓国では日本ほど公的年金や企業年金などが充実していないため、現役時代に十分な所得を確保しなければ、老後生活が苦しくなるのが実態だ。