証券界の働き方改革を推進

証券界の働き方改革を推進

日本証券業協会
会長
鈴木 茂晴 氏


聞き手 編集局長 島田一

――新会長として力を入れたいことは…。


鈴木 証券業は単に利益をあげるだけではなく、いかに世の中に役に立っているか、社会的意義を理解してもらうよう務める時期に来ている。国連が持続可能な社会を実現するための重要な指針として掲げた「持続可能な開発目標(SDGs)」を政府も推進しているが、証券界としても積極的に取り組む必要があると考えている。証券界の課題としては、貧困や環境などの解決を図る投資である「インパクト・インベストメント」での貢献があげられる。具体的には、地球温暖化など環境問題の解決に充当するグリーンボンドや、水関連の事業に充てられるウォーターボンドなどが発行されている。また、持続可能な開発目標ではジェンダー平等が提唱されているが、男女が平等に働けるような環境づくりも重要だ。この目標では課題が17項目、達成基準が169項目と多岐にわたるが、今後さらに意義を増す考えになると見ている。今はまだあまり知られていないが、世界各国の注目を集め、いずれ多くの人が理解するようになるだろう。証券界でもいち早く取り組めば、業界全体が大きく変わり、優秀な人材の流入にもつながる。この点、私の出身の大和証券では女性の登用に真っ先に注力してきた。当初は疑問を持つ人も多かったかもしれない。だが、社会常識としておかしくないことをすれば、後から流れはついてくると思っている。

――大和証券ではかなり前から先駆けて「働き方改革」に取り組んだ…。


鈴木 働き方改革は一見遠回りに見えるものの、労働効率を上げることにつながるため、会社にとっては最も利益があがるものだ。昔の証券界は男性中心の世界だったが、今はそうではなくなり、多くの女性が活躍している。証券界全体でも、働きやすい環境をつくるよう、まずは男性の育児休暇や年休の取得など、基本的なところから協会がきちんと取り組んでいく。協会では当面の主要課題で、事務局の運営態勢の整備として「職員のワークライフバランスの向上」も掲げている。証券界は長らく、手数料を稼ぐことを第一に考えてきたが、最も重要なのは顧客をつくり、資産を預けてもらうことだ。手数料稼ぎだけでは長続きしないが、顧客をきちんとつくれれば、最終的に大きな利益につながる。顧客づくりは、女性も男性と互角にできる部分であり、むしろ女性の特長を活かすことができる分野だ。例えば、訪問で怒られることがあっても、粘り強く関係を構築し、顧客として長く付き合うことができる女性は多い。大和証券では、CFPを保有する社員を年齢に関わらず相続コンサルタントとして各支店に配置したが、ここでも女性が活躍している。相続ビジネスは非常に大きなビジネスであるが、顧客に安心感を持って相談してもらえるかということが大きな要素となる。問題が起きたときに忌憚のない話ができ、安心感につなげている女性のコンサルタントは多い。一方、男性にも得意分野があり、証券業はそれぞれの特長が活かせるビジネスだと考えている。

――証券界全体で、女性の働きやすい環境をつくるべきと…。


鈴木 日本では男性ばかりが仕事の中心となっていたが、女性の活躍も進めば、一段の飛躍ができる。少子高齢化が一段と進む中で、証券界で働く女性は今後さらに増えるだろう。以前は出産を理由に辞める女性社員も多かったが、今は非常に少なくなっている。今のマーケット環境が続けば、証券界ではそれなりの賞与も得られる。かつての大量採用・大量退職という職場環境を経て、少数が残る時代もあったが、証券業界の体質の変化もあって今では辞める社員は少なくなった。特に地方では、生活コストが高い東京都心と同水準の賃金が得られるため、証券界で働き続けるメリットは高い。

――NISA普及への取り組みは…。


鈴木 18年1月から開始される「つみたてNISA」の制度について、導入が円滑にできるよう対応を進めている。これにより、有価証券で資産形成する人を増やし「貯蓄から投資へ」を真に進めるときが来た。通常のNISAは年間120万円の枠を一挙に利用する既存客も多かった。これに対し、「つみたてNISA」は1カ月に非課税枠が約3万円となり、このなかで長期間積み立てるものとなる。既存客はもちろんのこと、証券界がこれまでアプローチできなかった層にも利用してもらえると考えている。非課税期間は20年間となるが、毎月数万円を20年も積み立てれば、絶対ということではないが、高い確率で預金よりも高い利回りを実感できるだろう。既存客はもちろん、これまで投資に興味が持てなかった層にも、義務ではなく権利として周知していこうと考えている。これは非常に息の長いビジネスとなる。

――「つみたてNISA」は資産形成の導入剤になるか…。


鈴木 通常のNISAを初めて導入した時の勢いで口座数を増やすことは難しいかもしれないが、将来の証券ビジネスを伸ばしていくという姿勢が必要だ。預金がまだ多いなか、個人の金融資産に対するビジネスには伸ばす余地がある。証券会社にとっては、システム対応の費用がかかるうえ、毎月数万円と利益が薄いようにも思えるだろう。しかし、若年層のうちから積み立てによるメリットを実感してもらうことに意味がある。日本では個人の金融資産のほとんどが50歳以上の保有となり、この年代の中で相続により回っている状態だ。若年層のうちから有価証券での資産を形成した経験があれば、自身が相続される年代になったとき、資産の一部を有価証券で持っていた方が有利だとわかる。金融リテラシーの向上にも協会として引き続き取り組むが、成功体験があってこそ投資に踏み出してもらえるだろう。「つみたてNISA」は新しい顧客を開拓するにも良い手段だ。このため、短期的な儲けを問題にするのではなく、証券界では「百年の計」のつもりで取り組むべきだと考えている。

――短期的な利益だけでなく、長期での視点が必要だ…。


鈴木 目先の利益を追うだけでなく、社会的に真っ当なことをきちんとやることが遠回りに見えて一番近道だ。これは働き方改革についても言えることだ。人材が定着しない企業であれば、「ブラック企業」と言われ結局は長く続かない。企業不祥事も、突き詰めていけば常識に背いて目先の利益のみを追うことから始まっている。法律で禁止と明示されていなくても、法律の趣旨に背いていることは許されない社会になってきている。