防衛費はむしろ1兆円削減を

防衛費はむしろ1兆円削減を

軍事ジャーナリスト
清谷 信一 氏


聞き手 編集局長 島田一

――陸上自衛隊のAH―64Dヘリコプターの佐賀の墜落事故では、部品に欠陥があったのではないか。またAH―64Dは本当に必要なのか…。


清谷 現時点では断言ができないが、試験飛行前には入念に地上で運転を行う。このため整備不良よりも部品に不良があった可能性が強い。墜落したヘリコプターAH―64Dと、チームを組む偵察ヘリコプターOH―1の調達そのものが失敗だった。OH―1は過去ローターブレード部分に欠陥があって全機飛行停止となり、現在は三菱重工業(7011)製のエンジントラブルで2年以上全機が飛行停止状態だ。うち、2機は現在試験飛行させているが、全機飛行可能となるのは試験飛行終了後9年かかると防衛装備庁は言っている。OH―1は海外の同等品と比べて調達価格は5倍程度の高さにもかかわらず、性能は劣っている。偵察ヘリでは必須のデータリンク機能がなく、データを司令部や他のヘリコプターに送ることもできない。AH―64Dとの交信も音声無線だけだ。現代戦は戦えない。これでは戦闘だけでなく、災害派遣でも役に立たない。ところが、陸上幕僚監部は、震災時はセンサーを搭載した汎用ヘリコプターを使えば良いという。そうであればOH―1は不要ということになる。陸幕装備部に見識がなく、ただ単に国産ヘリを作りたいという「願望」だけで開発が決まった。せめてエンジン部分を海外製の信頼が高い製品にすればまだ良かったが、国産での調達にこだわった。結果元々は250機程度の開発を計画していたところ、調達は合計34機で打ち切られた。これは高い調達単価が理由だが、防衛省の調達は数が少なく採算が取れないため、欧州ベンダーからは調達を断られ、それを国産化するとい更にコストが高騰するから、といった事情もあった。つまりは調達計画が杜撰だったといことだ。

――装備調達の仕方に問題がある…。


清谷 通常軍隊は考えられる脅威に対し装備がどの程度の数が必要か計画し、どの程度の期間で調達、戦力化するか、また総額はどの程度になるかといった計画に基づいて予算を議会に提出する。議会が承認したうえでメーカーと契約をする。ところが、日本の場合はどの程度調達するという計画がないに等しく、いつまでにどの程度の金額をかけて調達するか、重要なことを政治家が知らない。例えば、89式小銃は89年に自衛隊で制式化されてから約30年経つが、未だに調達が完了していない。政治家は調達がいつ完了するか、総額がいくら掛かるか知らない。にも関わらず、予算はおりるため仮に調達が半分しか完了していない時点で戦争が起これば、数が不足した状態で戦闘することになる。この問題の背景には、本来は国防の手段である装備調達を、国産調達という目的にしてしまっていることがある。このため調達が完了し、戦力化されたころには旧式化している。あるいは数が揃わないうちに調達が打ち切られることもある。国産自体が目的化しているために細々と調達が行われるので価格が高騰する。高騰するからよけいに調達数が減るという悪循環に陥っており、諸外国の5~6倍もする装備も少なくない。だが、この問題にも政治家が興味や疑問を持っているとはいえない。さらに、このような状態が見直されず恒常化しているという事実も国民の多くに知らされていない。医療は法律など他の政治分野では在野の専門家によるセカンドオピニオンも期待できるが、防衛に関していえば、それが極めて少ない。政治家は内局や制服組の説明だけがソースでそれを鵜呑みする。その制服組が軍事知識と常識が欠如している。諸外国の動向を学ばず、自衛隊の教範しか読んでいない者も多い。つまり自衛隊内部のことしか興味がない。組織の成り立ちが戦争をしないという前提なので、真剣に有事を考えられていない部分もあるだろう。

――そのような状態で仮に戦争が起きた場合、対応はできるのか…。


清谷 自衛隊は戦闘、戦争による実際の被害を想定しておらず、対応は難しいだろう。例えば、自衛隊の個人携行救急品は国内用で3種類、PKO用で8種類のアイテムにとどまる。国内用の3種類とは、ポーチ、包帯、止血帯のみだ。これについて自衛隊では米軍と同程度の内容と説明するが、米軍は20種類のアイテムを携行し常に訓練している。この国内キットに関しては私が指摘して、昨年補正予算がついて若干改善された。また、自衛隊の部隊の医官の充足率は約2割で、護衛艦にはほとんど乗っていない。同盟関係にある米軍の親密に情報交換しているにもかかわらず、米軍から学ぶ気がない。戦争しない自らには関係のないことだとして自らの不足を補っていない。当事者意識と能力が欠如している。防衛予算を増やせば戦争に対応できるよう組織が強化されるという識者も少なく無いが、これは現実を見ていない意見だ。

――自衛官の人事にも不備がある…。


清谷 陸自では諸外国の一等兵や二等兵などに相当する、一士や二士任期制自衛官、「兵隊」が4割しかいない。伍長に当たる士長をあわせても「兵隊」の充足率は7割に過ぎない。彼らは原則2年契約の「契約社員」だ。部隊の最前線で戦う軍曹以下の隊員が少ない。人員を減らしているのは財務省から人件費削減を求められていることが背景にあるが、削られているのは一番人件費の安い「契約社員」で、逆に曹から将の「正社員」上の階級の隊員人数が増えている。つまり、人件費の高い「正社員」は手つかずどころか増加している。これでは人件費は減らない。海外では、ある年齢までに一定の階級まで到達しなければ退職するというルールがあるが、自衛隊は基本全員が定年まで残ることができる。このため、海外と比べて平均年齢も人件費も高く、実際に戦争に直面している軍隊とは緊張感が全く違う。自衛隊は自分たちに甘い組織と言わざるをえない。幹部数の削減は当事者能力が無いならば、本来は政治家が決断すべきことだ。

――自衛隊は情報に鈍感だという話があるが…。


清谷 例えば、海外視察の問題がある。かつて技術研究本部(現在は防衛装備庁の一部)では海外見本市などの視察は退役直前の将官の「卒業旅行」と化していた。海外視察を情報収集と捉えていない証左だ。この問題は、私自身が実名入りで執拗に報じた後「卒業旅行」は無くなり、防衛省の出張予算が増え、本来行くべき人が視察をするようになってきた。ただ、財務省が増額するといっても、防衛省側が視察や情報収集の予算を増やすことに積極的ではなく、使える予算を使えていない。このため組織が内弁慶的になり、海外の実情が理解されていないという現状もある。

――憲法改正により、自衛隊を軍として位置づければそうした状況は改善するか…。


清谷 憲法改正により全てが解決するような論調も見られるが、その手前の自衛隊の防衛任務のための法律さえ変えられないのが現状だ。憲法を改正しなくても、道路法や医師法を変えれば自衛隊の活動制限を制限している法令は変えられる。実際に小泉内閣での国民保護法や有事法が成立し、前進した。だがそれ以降法改正は進んでいない。政治の怠慢としか言いようが無い。これらの法律を変えずに、憲法改正で解決というのは稚拙な考えだ。恐らくは憲法を改正しても医師法などの諸法令を、圧力団体に配慮して改正できない可能性が高い。憲法改正と同様、防衛費をただ増やすことも、自衛隊の抱える諸問題を全て解決することにはつながらない。それ以前に諸外国の数倍の価格で低性能装備を、国産だからという理由だけで購入する今の調達に問題があり、使い方を考えなければ無駄遣いが拡大するだけだ。極端ではあるが、むしろ防衛費を1兆円削減しても良いとさえ思っている。予算が少なくなれば、使い方を真剣に考えるだろう。

――装備を全て海外調達するという考えは…。


清谷 それはやり方の1つではある。本来装備はできるだけ国産する方が、安全保障的にも雇用も生まれ望ましいが、それは防衛省と産業界に相応の能力があればの話だが、現状はかなり怪しい。国産にこだわる理由として、有事の場合に増産ができない点や、故障時などのフィードバックが悪い点が挙げられている。だが、それでも数倍の金額で調達する理由にはならない。むしろ安価な輸入品で調達期間を縮め、予備を潤沢に維持すればいい。国内の核心的な分野の防衛産業を残したいのであれば、海外に負けないコスト、性能を実現すべきだ。そのためには業界再編も必要だ。だが現実は同じ分野を世界的にみれば弱小数社で分け合い、全社に利益が行くよう防衛省が少しずつ長期間にわたり発注している。1社当たりの研究費や設備投資も十分ではない。また、1人の設計者が一生に設計する回数は、国内ではせいぜい1~2回にすぎないが、中国など海外では毎年のように新たな製品を出している。日本の技術は世界一と国内ではよくいうが、軍事に関して言えばイリュージョンである。例えば装甲車ではトルコ製の方が高性能だ。無人機でも中国の方が遙かに先を行っている。

――日本の兵器産業は競争力を大きく落としている…。


清谷 その原因は、防衛産業が完全に「国有企業化」してしまっているためだ。川崎重工業(7012)は輸送機C―2を海外で販売しようと民間転用を試みていたが、そもそもできるわけがない。民間転用する場合は、耐空証明や型式証明が必要だが、これから取るとなると数百億円はかかる。この費用だけで防衛省向けのC―2の利益を吐き出すことになる。川重にそのリスクを取るつもりは無い。にもかかわらず、税金で調査したり、見本市に出したりと格好だけ付けている状態だ。本当は民間転用する気などないが、国産機の生産を正当化する必要があるためだ。また、C―2は米国の輸送機、C―17と同程度の価格だが、搭載量は3分の1程度にとどまり、戦術輸送機では当たり前の不整地での運用ができない。自衛隊以外に購入する者はいないだろう。とはいえ、これらの現状を検証して批判するメディアは少なく、防衛に関する報道にも大きな問題がある。防衛記者クラブの記者は大臣や幕僚長が嫌がる質問をしないうえ、防衛に対する知識も足りていない。

――防衛産業には問題が多い…。


清谷 防衛産業を本気で手がける気がなければ、事業を譲渡するなり、他社と統合するなりしないといけないが、それができない。当事者意識と能力が欠如している。国内企業の防衛部門の売上高は概ねその会社の売り上げの1~2%程度にすぎないため、経営者が本腰を入れて長期戦略を考えていない。任期中は穏便に済ませたいと思う経営者が多いようで、続けるのか、撤退するのかの決断は先送りとなっている。恐らく多くの防衛部門を持つ企業は今後10年以内に事業規模が小さくなりすぎて最終的に撤退するだろう。最悪のシナリオだ。そもそも、性能が低く、コスト高で他国の数倍もする装備の生産を続けて税金を浪費することが、株主や納税者に対して誠実なのか、企業の社会的責任という側面からも問われている。また、普段から株主や一般消費者に対し、防衛装備を手がけていることを開示する姿勢も必要だ。Webサイトなどで防衛産業に関わっている情報を開示していない企業は少なくない。企業だけでなく、経済産業省や防衛省も当事者意識を持って関わらなくては防衛予算を増やしても無駄である。