新技術で電力業界の無駄を削減

新技術で電力業界の無駄を削減

パネイル
代表取締役社長 CEO
名越 達彦 氏


聞き手 編集局長 島田一

――海外と比べ日本の電気料金は相当高く設定されている…。


名越 日本の電力料金は法律に基づき、全ての費用にさらに一定の利益を上乗せして料金を決める総括原価方式が長らく採用されていた。電力会社は設備が多額となるうえ、人件費も当然かかる。これらの費用を回収し、さらに利益が出るよう価格設定していれば、電気料金も自然と高い水準となる。また、電力供給が地域独占で、料金も認可制で決まるなかでは、競争原理が働かず、料金が引き下げられる理由がない状態が続いていた。これが、16年4月の電力小売の全面自由化により、新電力との価格競争が発生するようになった。日本の電気料金は海外と比べ約1・5~3倍となっているが、自由化により今後は海外により近づく可能性がある。一方、日本では東日本大震災を機に起きた原子力発電所の稼働停止などにより、電気料金はさらに上昇傾向にある。ただ、当社が挑戦しようとしているのは、原発再稼働の促進などで電気料金を引き下げることではない。そうではなく、電力業界にもともと発生している無駄な部分にアプローチして、事務の合理化を進めることだ。

――電力業界で合理化できることとは…。


名越 ITを活用することで業務の合理化を進め、販売管理費が削減されれば、電力業界でもコストを下げられ、顧客も価格低下を享受できる。電力業界は、他の業界に比べればIT化がまだ進んでいない部分が多いため、ここで当社は相当な価値を出せると考えている。電力会社の基幹システムは、使われている技術が古いうえ、その過去の技術に対応できる人材による運用が続いている。技術が古いため特殊な作業が発生し、この結果、非効率な部分がかなりあることは業界全体の課題となっている。全てのシステムがすぐに変わるわけではないが、当社では電力会社向けに「パネイルクラウド」というシステムを提供しており、これにより相当な事務コスト引き下げが可能となる。

――パネイルクラウドとはどのようなシステムか…。


名越 これはAIとビッグデータを活用した電力会社向けの基幹システムとなり、電力の流通にかかるコストを削減できる特徴がある。従来型のシステムでは、大手ベンダーが年月をかけて開発するのが通常となるが、発注する電力会社の要望をそのまま反映して開発されるケースが多い。電力業界の昔からの慣習を反映し続けているため、技術も数十年前のものが中心となり、人による手運用に頼ったものとなっている。金融機関でも古い技術が反映されるケースはあるが、電力業界は特にその傾向が強い。

――具体的にどのようにコストを削減するのか…。


名越 電力の小売業務では、営業活動で得た顧客データを入力した後、電気の供給時の情報を管理し、最後に電気料金の請求にかかる処理が発生する。電力の供給時だけでも、顧客ごとの使用量を予測に基づき仕入れをして電源を調達するなど、様々な業務がある。このように、電力小売では膨大な作業が発生するが、従来型のシステムでは、人員を多く配置しデータを入力するというのが一般的だ。ここで発生したコストは、顧客に電気料金の高さという形で転嫁されている。また、電力小売の全面自由化を機に新電力の設立が相次いだものの、膨大すぎる業務を背景に撤退する事業者も出てきている。電気料金の価格競争が激しくなる一方で、膨大な作業が続くのであれば、利益にコストが見合わなくなってしまう。AIやビッグデータを活用し、従来型のシステムからIT化できる部分をITに置き換えることでコストを大幅に削減する。私の出身地である山口県岩国市の日本酒「獺祭」も、杜氏がいなくてもデータ分析により酒造りをする成功例が見られている。このように、誰がやっても同じものができる仕組みを組み立てれば、コストの削減だけでなく生産の安定にもつなげられる。

――そのシステムの導入を広げるにあたっての苦労は…。


名越 パネイルクラウドの開発後すぐには、この仕組みを購入する事業者を探すのが難しかった。そこで実際に使われなければ効果も実証できないと考え、自ら小売事業者に登録し、電力会社を設立した。設立した電力会社にこのシステムを導入して実証を繰り返し、今ではシステムを使った子会社である電気小売事業者が全国に7社ある。先に売上が発生したのはこの電力小売りの方だった。自らが収益を上げながら、パネイルクラウドという低コストの基幹システムで利益を実証してきた。その延長で東京電力エナジーパートナー社と4月、電気やガスを販売するPinT(ピント)社を共同出資で設立した。ピント社の電力販売では、全面的にパネイルクラウドを採用する。

――売上高での数値目標は…。


名越 ピント社を除くパネイルグループ全体で、数年内に年商1000億円を目指して展開している。グループを通じた供給では、電気を直接顧客に届ける販売事業に対しても反響はある。ITを駆使し、経済合理性を発揮できる点で他の事業者と異なり、特徴がはっきりしていることが勝因にあげられる。電力の流通にITを活用し安定供給ができるうえ、販売管理費を合理化していることで、中間コストが下げられる点が特徴だ。4月に設立したピント社も、21年に年商で数百億円の規模を目指している。このピント社も、東電エナジーパートナーとの合弁となっているうえ、当社では多くの金融機関と資本提携している。これらの金融機関が主要株主となっていることで、信用力が付いてきたという点も推進力となっている。個人が電力を購入する際、価格はさることながら、信用力も重視する人は多いだろう。金融機関との資本提携により、安心感を積み上げてきたところも大きい。同様の理由で、東証上場についても前向きに考えていきたい。

――今後の抱負は…。


名越 今回は東電エナジーパートナーとの合弁を設立したが、より多くの事業者にパネイルクラウドを使ってもらい、流通の無駄をさらに減らしていきたい。これによるコスト削減を顧客に還元できたらと考えている。電力業界の最も大きな課題は、古い技術を使うことによる流通の無駄だ。流通をよりスムーズにするためには、ITでできることは多い。当社は2020年問題を抱えているソーラーパネルについても、研究開発を進めている。当社の経営理念では、「世界中のエネルギー市場に最先端のEnergyTechを」とミッションを掲げている。エネルギー業界に新しいITテクノロジーを普及させたい。