中国の巨大化は世界のリスク

中国の巨大化は世界のリスク

日本経済大学
教授
生田 章一 氏


聞き手 編集局長 島田一

――米国のトランプ大統領の旋風が吹き荒れて、対中国が中心であったものが、対日本との関係まで波及してきている…。


生田 トランプ大統領の政策については押さえておくべき点がいくつかある。第1に、これらは2017年12月の国家安全保障戦略と2018年2月の通商政策の報告書から一貫した流れの中から出てきたもので、決して中間選挙対策のようなものではないということ。米国と中国のマクロ経済指標を並べてみると、こんなに極端に優劣の違いがあるかと驚く。WTO加盟からの16年間、中国はグローバル経済では独り勝ちで、今や世界経済の成長率への寄与度は30%余りと米国・EU・日本を合わせたよりも大きい。一連のトランプ政策は、沈みかけてきた巨艦が発したSOSと思うべきかもしれない。第2に、米国内のISバランス(貯蓄投資バランス)で見たときの貯蓄不足をそのままにしておいて、短期的に貿易収支を改善するというのは無理ということ。それは、ないものねだりだ。しかも、その威嚇的手段とも言えるWTOルールを無視した制裁発動は、方法論として世界のリーダーが採るべきものとはほど遠い。トランプ大統領は昨年の11月から5種類の対中国アクションを行っているが、本来、WTO手続きによって行うべきものまで一方的措置として発動している。これは、中国への挑戦を通り越してWTOへの挑戦とも言える。第3に、中国は世界最大の外貨準備・貿易黒字を有し、世界有数の国内マーケットが形成されているにも関わらず、市場経済的なレシプロシティ(相互主義)を確保することには非常に消極的であるということだ。

――中国は、自国に対しては保護主義の塊だ…。


生田 中国は、海外には自由市場経済を求めるばかりで、外国企業に対しては技術移転の強要、外国からの投資に対する差別的規制、為替の統制を行っている。また、国内では、二重戸籍制度による低賃金労働の活用、国内企業に対する不明瞭な補助金、政府部門による戦略的な調達、政策金利による膨大な銀行利益を背景とした戦略的融資を行っている。さらに、中国企業にだけは甘い独占禁止法の運用、経済協力・援助と一体となったヒモ付き輸出、電子商取引での国内市場の囲い込み等、多くの点で市場経済国家とは程遠い政策を行っている。つまり、国全体で重商主義的輸出・戦略産業の育成を続けており、このような形で中国だけが一人勝ちを続けて巨大化していくこと自体が、将来、確実に世界経済のリスクとなる。中国からすれば、この都合の良い体制がトランプ大統領によって初めてストップをかけられたということで、私はトランプ大統領の非常識ばかりを責めるべきではないと思っている。日本も「ディール」という形で、各種の譲歩を求められているが、日本は公正な市場経済運営を行っているという点で、中国とは全く違う。同盟国である米国の立場に可能な限り配慮する必要はあるが、この点は中国と同類にされるべきではない。

――中国経済の最大の問題は…。


生田 中国主要企業の中に中国共産党の組織を置いていることと、定款の中に「共産党の方針に従う」と書き込ませていることだ。要するに、市場経済国家としての建前を放棄しているということ。そこには共産党の序列の高い人も多くいる。そんな中で、中国のお金が世界中に出回っている。金融市場も例外ではないが、幸いにして日本のマーケットには流れてきていない。東京株式市場では、今、約7割の外国人投資家が売り買いしていると言われているが、これに中国の資本が加わり、毎日、米中を含めた外国人投資家が日本株を売り買いするようになると、日本の株式市場、為替市場は恐ろしいことになるだろう。

――米中貿易戦争の行きつく先は…。


生田 中国が大幅に譲歩することは考えられない。国内で統制色を強めている習政権にとって、海外の恫喝に簡単に屈するということは、体制の存続にも影響するし、共産党の命令で米国輸出を半分に減らせなどとは簡単に言えない。また、ドイツの「インダストリー4.0」を参考とした「中国製造2025」も米国のターゲットとされているが、中国の最重要産業政策を米国側の理由で放棄するなど絶対にありえない。もちろん、今回の貿易戦争に勝者はおらず、明らかに世界景気の減速に繋がるだろう。真っ先に影響を受けるのは、中国に進出して対米輸出に関係している米国企業だ。彼らはすぐには他の輸出先を開拓できない。次に、中国で組み立てられるための部品を輸出している東南アジアの企業。サプライチェーンが着実に出来上がっているため、彼らも貿易戦争の影響を直接に受けることになるだろう。そういったことから今後の中国経済を考えると、中国に進出した外資企業を中心に倒産・撤退は起こる可能性はあっても、経済が崩壊するようなことは無いと思う。2015年の金融危機の時もそういう議論ばかりが先行したが、今の中国の経済は、規模が大きくなったというだけでなく、懐が深くなってきている。例えば「一帯一路」構想の進展で、その沿線国への輸出は全体の28%にまで達し、特に6つの経済回廊の国々との間では、大プロジェクトが目白押しだ。

――「一帯一路」構想の狙いは…。


生田 国内経済対策が大きな要素であることは忘れてはならない。一時期、中国は国内の債務ばかりを増やして誰も住まないようなマンションなどを作り続け、建設業をはじめ、鉄もガラスもセメント業も大きく過剰生産体制を修正せざるをえない方向に向かった。しかし、今年上半期の中国の鉄鋼生産量は史上最高だった。これは明らかに一帯一路によるものだ。中国の大手建設会社は国営で9つもあり、これらや過剰設備体質の業界が、今は一帯一路計画のもとで順調に仕事をしている。この計画が続く限り、鉄道や橋、発電所など恒常的に仕事がある。また、そういった計画の中で現地の利権を中国のものにしている例も目立ってきている。例えば、スリランカの港には普通のコンテナ船がほとんど見当たらず、まるで中国の軍港の様だったり、隣接する空港には定期便もなく、将来はそこに中国の軍用機が置かれるのではないかともささやかれている。何より重要なことは、「一帯一路」構想は大半が中国の資金源で、中国企業の受注・中国IT技術の導入・中国資材の購入がタイド(条件付き)で進められているという事だ。資金が戻ってくるため経済対策としての重要性は非常に大きく、新規需要の創設(建設)、過剰設備対策(鉄鋼・非鉄金属・ガラス・セメント・化学品・機械)、国営企業の過剰債務対策として重要な役割を果たしている。

――対ロシア、対アセアンなど周辺国との関係は…。


生田 資源国ロシアとの関係は、クリミア半島の問題でロシアが制裁を受けていることもあり、中国とは見事な補完関係が出来上がってきている。中ロの関係は、歴史上こんなに良かった時代は無かったと言えるほど良好だ。また、アセアンとの相互依存関係も進化しており、関税率0%の品目が95%を占めるというレベルの高いFTAが出来上がっている。多くのアセアン国にとって最大の貿易相手国(域外)は中国という状況だ。9月にはアフリカから54ヵ国を迎えて「中国アフリカフォーラム」が北京で開催されたが、既にアフリカ全体としては、中国は最大の貿易相手国となっている。欧州向けの貨物列車も年々増加し、2017年には中国の38都市から計3670本の列車が運行されている。多くの専門家が指摘するように、中国の国内には深刻な債務累積問題が存在しており、習政権が登場して以降、債務圧縮政策の進展・後戻りと政策が揺れ動いてきた。米中貿易戦争を仕掛けられて、6月には預金準備率を引き下げる金融緩和、7月には共産党政治局会議で債務圧縮から景気対策に軸足を移すための財政支出の拡大と、金融面での流動性確保の方針が決められている。このようなバランスを保ちながら、当面、債務累積問題の解決は先送りして影響をミニマイズしていくのだろう。(了)